TOUR LOVE

 自分自身で心の中をのぞいていくと、厳格で分かりやすい場所が見つかる。それにはいくつかの変わらない愛情が含まれている。それらの中で最も顕著なのが、サイクリングに対する私の純粋な愛情である。例えば、富と時間を得て明日から自由になれるとしたら...。迷わず、今いる場からの逃亡計画を企てるはずである。それから何をするだろうか?皆の多くと違わず、いつものサイクリングのホームグランドに向かうだろう。なだらかな丘陵地や急坂の石畳を走るのもよいのだが、やはり一番のお気に入りは山岳エリアである。自分の持ち得ているアイテムで、ヨーロッパの2,000メートル級の山並みを1ヶ月かけて、ゆったりとしたライディングを満喫するであろう。そしてこれら全て走破するまで、1日に2回、ライディングに対する思いを祈ることになるであろう。
 自分の純愛はグランツールと特別なツール・ド・フランスに取っておいている。ツールに対する私の愛情は、勇気や強引さ、筋肉質のかっこよさ、もしくは粋がりや虚勢ではなく、子供時代の楽しい感覚が基礎となっているといえよう。
子供の頃の自転車と戯れるひと時は、大のお気に入りの過ごし方であった。パーフェクトなお天気の日は、一日の大半を自転車とともに過ごし、より遠くに行くほどそれが最良の一日となった。天気がよい夏であったなら、可能であれば3ヶ 月間学校もなく、毎日自転車に何時間も乗り、地上の楽園を楽しむことができたであろう。
だからこそツール・ド・フランスの存在を初めて知った時は衝撃的であった。初夏にフランスの国中をライディングする3週間。1日5〜6時間を、ただ単に自転車に乗ることだけに費やす3週間。ベストフレンドとともに時間を共有する3週間。まさしく夢が実現するのである。 グレッグ・レモンが1日8時間トレーニングしていると聞いた時、私は深い妬みを感じたが、それにより自分のシューズと我が家の財政を炎上させてしまうことになると感じた。グレッグにはスポンサーがいてトレーニングに集中できる環境があるが、自分の周りは1度に2時間以上トレーニングをさせてくれなかった。明らかに、私の知らない世界が広がっていた。 今日に至るまで、自分が叶えたい願い事リストで、フランス中をライディングして過ごす1ヶ月というのは不動のトップである。パメラ・アンダーソン(カナダのモデル)とのデート、スーパーボールの50ヤードラインのチケット、ホワイトハウスでのディナー、ペトリュス(ワイン)を1ケース友人に出すこと...これらどれもが、来る日の山岳ライディングのことを考えた時の興奮には敵うことはない。
 さらに羨むべきはプロ生活の頂点であるグランツールの生活リズムである。起きる、食べる、休む、食べる、レース、食べる、休む、食べる、寝る。そんな生活は、簡単に監獄生活のようになりえる人もいるが、私にとってはお気に入りの食事を腹一杯に詰め込むチャンスである。毎日、毎週がレースによって決められる。
 グランツールやそのレースがどんなものか知るようになった時、その愛情は増すばかりであった。煌めきや偉大さ全てにおいて、最後のアタックというより、むしろ保護・効率性・戦術のセンスによってレースの勝敗は生まれている。確かに相手を一撃でひるませるアタックができる選手は賞賛に値するが、慎重さもアタックそのものと同じくらい重要である。間違ったタイミングでアタックすると、無駄に終わるだけでなく、自身の破滅にもつながる。
 子供時代の夏の日のピークは、7月の最終週であった。毎日自転車に乗り、悪友たちとのパレードやバーベキュー・花火に行くまで、最終週までパーフェクトな夏の日であった。何度も何度も外で遊ばない日のないツール・ド・フランスは何なのだろうか。
 ランタン・ルージュ(完走者の中で、最も総合タイムの遅い選手に贈られる賞)になれたらどんなに素晴らしい生活だろうとしばしば想像している。ツールそのものに勝つようなことは単純に心に思い描けないが、グランツールにかろうじてしがみついているだけの男になることは推測できる。信じられない状態がずっと続いている。私はまだここにいる、私はまだこの中にいるんだと!
 ある日ツールを戦うことを願っているプロの人全てが、実際に出場している訳ではないということを学んだ。なんて恐ろしいことだ!熟慮し、結論を出し、チームを作らなかった。花火もない、お世辞もない、冷たい山岳ルートもない。シンデレラはそのような痛みも知るべきだ。
 世界の多くの特権の中で、できるならば清教徒の生活をするだろう。私の確固たる意志は結束し、訓練は花崗岩よりもハードで、意志は物理の法則よりも堅いものである。すべてはたった一度だけのグランツールに出場するためである。

著者:Patrick Brady フリーライター・サイクル評論家
RedKitePrayer.comにも関わっており、2冊のサイクル随筆本(Bicycling Los Angeles County and The No-Drop Zone: Everything You Need To Know About the Peloton, Your Gear and Riding Strong)の著者。
南カリフォルニア在住。